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金沢地方裁判所 昭和24年(行)6号 判決

原告 出崎修治

被告 石川県農地委員会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

一、原告訴訟代理人は、(一)被告が昭和二十三年十二月二日別紙目録記載農地につき爲した「昭和二十三年十二月二日を以つて賃貸人出崎修治と賃借人出崎兵太郎との間に賃貸借契約が締結され同日を以つて引渡を爲すものとす賃借料は賃貸借解約当時と同額とす」る旨の裁決はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として原告は居村で農業を営み右目録記載農地を所有し、從前よりこれを訴外出崎兵太郎に賃貸しておいたところ、終戰後の増産を図る必要上、昭和二十二年三月これを合意解約し、同年六月三十日その旨の法律上の手続をした結果、同年九月二十三日石川縣知事よりその許可を得たので、その頃適法に右農地の返還を受けた。然るに、豊川村農地委員会は昭和二十三年九月二日、右兵太郎に対し農地調整法附則(昭和二十二年法律第二百四十号による)第三條に定める賃借権回復の協議を求めるための「承認」を與えた上、その申請で同年九月二十二日本件農地の耕作権を兵太郎に復帰する旨の裁定を爲したので、原告はこれを不服とし、被告に訴願したところ、同年十二月二日請求趣旨記載のような裁決を下した。しかし乍ら、(1)市町村農地委員会は右附則第三條第二項にもあるとおり、農地の賃貸借契約の解約が適法且正当である場合には右の承認を與えてはならぬのであるが、原告の右解約は経営能力、生産面、生活状態等を考慮の上相当だとされて右の如く知事から許可されたのであるから、右農地委員会がこれを無視して前記承認を與え且つそれに伴う裁定をしたのは違法である。從つてこれを支持する被告の本件裁決も亦違法である。(2)又被告は縣農地委員会として訴願があれば下級の豊川村農地委員会の爲した裁定を不当とすればこれを取消し、相当とすれば訴願の申立を却下すべきであるに拘らず、右農地委員会が爲した裁定と同旨の裁決を爲している。これは明かに越権であつて違法である。(3)仮りにこれが理由なしとしても、昭和二十三年九月二十二日右豊川村農地委員会の爲した裁定には同委員会の議決を経ないで会長たる的場忠太郎が独断でこれを爲した違法があるから、これを是認する被告の裁決も亦違法である。仍て右違法裁決の取消を求めるため本訴に及ぶ、

(二)、被告の主張に対し、(1)原告が本件裁決のあつたことを知つたのは昭和二十三年十二月十八日から同月十九日であるから、法律に定める一ケ月の出訴期間は徒過されていない。(2)本案に関する被告主張事実は全部爭う。すなわち本訴田の解約許可にはその主張するような交換條件はなかつたのである。原告は右田と他の居村八の部九十三番外二筆計一反二畝六歩の返還を求めたけれども豊川村農地委員会としては本件農地についてのみ解約を認め、右八の部の農地は從前どおり耕作させることにしその旨右農地委員会から上申された結果右のように知事の許可があつたのである。

と述べた。

二、被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、(1)原告が被告のした裁決のあつたことを知つたのは昭和二十三年十二月十七日であつて、その後一ケ月を過ぎた昭和二十四年一月十八日に本訴が提起されているから農地調整法の前示附則第五條に定める出訴期間を徒過した不適法な訴として却下さるべきである。(2)本案につき、原告主張事実中本件田が原告の所有であつて、兵太郎が以前これを賃借していたこと、ところが、原告から合意解約があつたとしてその主張する申請手続が爲され、ついで知事の許可があつたこと、その後原告のいうように豊川村農地委員会の兵太郎に対する承認、その主張の裁定、これに対する原告の異議、訴願、被告の裁決があつたことはこれを認めるがその他はこれを否認する。(イ)先ず昭和二十二年九月二十三日原告の本件合意解約が許可されたのは、原告が以前から兵太郎に小作させていた前示八の部の三筆計一反二畝六歩の買收賣渡手続に異議を申立てないことを交換條件とされていたのであつて、原告がこれに不服を申立てるときは当然右合意解約も当初の意思に反し、その解約許可も亦取消さるべきことになつていた。豊川村農地委員会は原告において右の條項を守らず不服を申立てたから、右に從いその解約許可取消の手続に代え、兵太郎に対し賃借権回復の協議をするための承認を與え、それが不調になつたから本件の裁定を爲し、被告も亦その趣旨に從い本件裁決をしたのである。(ロ)被告も亦前記附則第三條に規定する賃借権設定の裁決をする権限がある。(ハ)原告は豊川村農地委員会の裁定には議決を経ない違法があると主張するけれども、同委員会では昭和二十三年四月三十日、同年五月二十九日、同年九月二日の各委員会の決議に基き右裁定をみたもので不当なる点はない、と述べた。(証拠省略)

三、理  由

一、本件の出訴期間の点につき考察するに、成立に爭のない乙第九号証によれば昭和二十三年十二月二日附本件被告の裁決は同年十二月十八日に係員の手で原告本人に送付されていることが明かであるから、原告が本訴で取消しを求めている行政処分は少くとも右の十八日以降にこれを知つたものと言わねばならない。從つて右十八日から一ケ月の出訴期間を起算したとしても、初日たる十八日を算入しないとすれば、翌昭和二十四年一月十八日が期間の最終日となり、而して本訴が提起されたのは右最終日であることが明かであるから本訴の出訴期間は徒過されていないことになる。故に被告のこの点の主張は理由がない。

二、先ず、原告は本件田の所有者であつて、これを以前から訴外出崎兵太郎に賃貸してあつたが、原告は昭和二十二年三月その解約を申出、同年六月三十日その許可申請を爲した結果、同年九月二十三日石川縣知事よりその許可があつたこと、然るに、その後兵太郎から豊川村農地委員会に対し元の賃貸人であつた原告と農地調整法附則(昭和二十二年法律第二百四十号)第二條の賃貸借契約を締結するについて協議を求めるため同條に定める「承認」を求め、昭和二十三年九月二日同委員会はその承認を與えた上、ついで兵太郎の申請で同月二十二日本件田に関する賃借権設定の裁定が下され、原告は訴願をした結果、被告は主文記載の如き裁決を爲したことは当事者間に爭がない。

三、豊川村農地委員の爲した裁定の前提たる「承認」の適否について

(一)  原告は右承認の不当なる理由として、本件農地の賃貸借契約は適法且つ正当に合意上解約されたと主張するけれども、成立に爭のない乙第一号証並に眞正に成立したと認められる乙第五、第六号証、証人山本林造、同山口伊七郎、同岩本與八郎、同竹谷内吉一、同島田清次郎、同岡崎嘉一、同畑中幸一、同出崎兵太郎の各証言を綜合すると、昭和二十二年三月原告は兵太郎に対し本件豊田十の部の農地と同じく八の部の農地の返還を申込んだが、兵太郎はこれに應じなかつたので、原告は豊川村農地委員会にその請求をしたところ、昭和二十二年三月三十一日の同委員会の審議の模様では最初から取上げの理由はないという空気であつたが、原告と兵太郎は本家分家の関係であるので、同委員会は農地調整法が要求している如き賃貸人の自作を相当とする諸般の事情を考慮することは一應さておき、專ら爭議の防止、円満解決という観点から、事件当事者の意向を尊重し、小作人たる兵太郎には前記八の部を賣渡す代りに、十の部を原告に返還することとし、原告も亦右十の部を返えして貰う代りに八の部を兵太郎に分讓することに異存をのべない、というふうに両者の承諾を求め、その上で本件を処理することに決定したことが認められる。これによつても明かな如く、原告の主張する本件の合意解約は予め当事者間に成立したものではなく農地委員会が仲に入つて成立したもので、これには原告においていわゆる八の部を兵太郎に分讓することに異存を言わないことがその前提要件になつていたのである。右認定に反する甲第五号証の記載、証人和田秋雄、同福村孫喜知、原告本人の一部の供述は措信できない。然るに被告が主張する如く、前掲証拠中乙第五号証、証人山本林造、同山口伊七郎、同出崎兵太郎、同竹谷内吉一の各証言並に眞正に成立したと認める乙第二号証によれば、右農地委員会では八の部の所有権を兵太郎に認める手続としてこれに買收賣渡の手続を樹立したところ、原告はこれに不服を申立てるのみならず、兵太郎に対し内容証明郵便を送り、賣渡どころかその耕作さえ認められないというので、その返還を求めたから、兵太郎も亦、原告の方でさきに取りきめた約束を破り、前提條件を履行してくれないのなら、十の部の返還も白紙にして貰い度と申出るに到つた事情が明かであるから、本件の合意解約は少くとも賃借人たる兵太郎の当初の意思に反し、而も原告の信義にもとる行爲によつて解約されるに至つたと言わねばならない。然らば、右解約について昭和二十二年九月二十三日形式上知事の許可はあつたと言い乍らその実は不法な農地の取上げであつたと言うべきであるから、本件合意解約は少くとも適法ではなかつたと言わねばならない。而して又、原告において自作するを相当とする理由については前示のように農地委員会はむしろ否定的な態度をとつているし、原告提出の資料によつても未だこれを相当とする理由が見当らない。尤も成立に爭のない甲第二、第三号証並に眞正に成立したと認められる甲第四号証によれば、原告方の從農人員は三人であるのに兵太郎方では二人であることが認められるが、眞正に成立したと認められる甲第七号証、乙第五号証によれば兵太郎方は專業として農業をいとなんでいるのに、原告方は兼業であることが窺われるから、必ずしも人数だけでこれを相当であるとも言えない。甲第六号証には「正当である」という意見がついているが、これは前認定の如く深く実情を調査せず、両者の合意があるというのでつけられたにすぎない。そうすると、本件の合意解約は正当性も亦なかつたというの外はない。

(二)  而して、農地の解約等が適法且つ正当である場合には、都道府縣農地委員会が事情を調査して解約等を適法且つ正当であると認定したと否とにかかわらず、これに対しては市町村農地委員会は賃借権回復を協議するための「承認」を與えてはならないと解すべきであるが、前段の如く苟しくも適法、正当であると認められない以上これに対し右の承認を與えることは毫も妨げないところと言わねばならない。すなわち、昭和二十年十一月二十三日当時本件農地の賃借人でその後右適法且つ正当ならざる合意解約により一旦その賃借人でなくなつた兵太郎に対し昭和二十三年九月前記農地委員会が右承認を與えたのは何ら違法とすべき点がない。

四、次に原告主張の違法事由第二点について、

農地調整法前記附則第三條第七項によれば、訴願の申立が理由がない場合の裁決として同條「第五項による訴願が却下され」とあり、又別に「賃借権を設定すべき旨の裁決」とあるところからすると必ずしも訴願却下又は裁定取消の二者中一途を出ることが出來ないわけではない。從つて原告のこの点の主張は理由がない。

五、賃借権設定の裁定に議決を経ない違法があるとの点について、

兵太郎が原告に対し本件農地について再び賃貸借契約を締結することに関し協議を求めるため、豊川村農地委員会よりその承認を得たのは前認定の如く昭和二十三年九月二日であり、且つその承認の不当でないこと既に述べたところである。而して、成立に爭のない乙第一号証、第十号証並に第十一号証、当裁判所が眞正に成立したと認める乙第二号証乃至第四号証及び乙第六号証乃至第八号証を彼此対照考察すると、兵太郎は同年九月十三日原告に対し委員会において右協議を求めたけれども、不調に終つたので、同月十八日法律上の手続に從い裁定申請書を提出したところ、前記農地委員会は、本件については昭和二十三年度の第一回委員会より同年九月二日の第四回委員会にいたるまで、兵太郎のため賃借権を回復すべきこと殆んど既定の事実の如く考えていたので、右申請のあつた九月十八日以降には別にそのための委員会は招集しなかつたけれども、同月二十二日第四委員会の審議を基礎にして本件の裁定をしたことが認められる。而して更に、原告はこれに対し訴願をしたので、被告は裁決廳として原裁定を是認するかたわら、兵太郎の賃借権回復の申請を容認したことが認められるのであるが、右の如く豊川村農地委員会の裁定には裁定申請前の決議を援用しているという手続上の瑕疵はあるけれども、その上級行政廳たる被告において結局正当な承認を得た賃借権回復申請者たる兵太郎に対し手続上においても適法にその旨の裁決を與えているのであるから未だ該裁定にはこれを取消すべき違法はなかつたと言わねばならない。而して更に、原告が主張する如く会長たる的場忠太郎に独断で裁定を下したという証拠がないから、原告のこの点の主張も失当である。

六、以上の如く豊川村農地委員会が與えた前記承認にはこれを法律上あたえてはならないのに與えたという違法並に原告主張の第二、第三の各違法事由は凡て存在しないから、その違法あることを前提とする原告の本訴請求は失当である。よつてこれを棄却することとし訴訟費用については民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 北野孝一 米光哲 向井哲次郎)

(目録省略)

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